ここでは楽典に関する本のレビューをしていきます。定番の本には見出しに[定番]、おすすめの本には[オススメ!]としています。
こちらの記事をきっかけに、あなたに合う1冊が見つかれば幸いです。
取り上げている書籍の中にはすでに絶版のものが含まれている場合があります
『音楽の基礎』芥川也寸志著 [定番]
『音楽の基礎』というタイトルからもわかる通り、音楽の基礎について書かれた本です。内容的にはクラシック中心の音楽書というところでしょうか。
新書で価格も安く、手っ取り早く音楽の基礎について勉強したいならオススメの本です。
取り上げている内容は、音名・記譜法・リズム・音階・和声・対位法などなど、「広く浅く」という感じになっています。クラシックにあまり拒否反応がない人には楽しめる内容だと思います。
ただ、音楽に関する「読み物」として扱ったほうがいいです。この本で作曲に関する知識が深まるということはないと思います。
この本で個人的に気に入っている一節があります。
作曲家は自分の書いたある旋律が気に入らないとき、ただちにそれを消し去ってしまうだろう。(中略)その行為は、もとの静寂のほうがより美しいことを、みずから認めた結果にほかならない
確かにうなずける部分だと思います。
『よくわかる楽典の教科書』小谷野謙一著 [定番]
こちらの本は他の楽典と同様に、「五線」や「音名」「拍子」「音程」「音階」「和音」「演奏記号」「奏法」を扱っています。
特徴としては1項目を見開き2ページ分で解説されていますので、区切りがはっきりしていて読みやすい配慮がされていると感じました。
また、章ごとにミニコラムがあり、できるだけ退屈させないように工夫されています。
五線譜や図等も多用されておりますので、初めて音楽を学ぶ方でも抵抗なく読んでいける構成ですが、やはり見開きで解説するということで紙面の制限から、やや説明が簡潔に感じるところが見受けられます。
そのため、個人的には予習よりも復習向きで、ちょっと調べたいという時の座右の書的な感じで使うのがベストではないかと思います。
「楽典」系の本は通常、クラシック寄りの内容なので用語もクラシック寄りになりますが、こちらの本は例えば「七の和音(セブンスコード)」というように、ポピュラー向けにも配慮されています。
また、ポピュラーミュージックでは当たり前ともいうべき「コードネーム」に関する記載もありますので、この本からポピュラー向けの音楽理論書へスムーズに移行できるのではないでしょうか?
『できる ゼロからはじめる楽譜&リズムの読み方』侘美秀俊著 [オススメ!]
「できる」シリーズと言えばパソコン向けの書籍というイメージがありましたが、とうとう音楽にも進出したようです!
こちらの『ゼロからはじめる楽譜&リズムの読み方』は楽典を扱う内容ですが、通常楽典というと五線から始まって音名、ト音記号やヘ音記号、音符や休符、拍子・・・という流れになることが多いですが、こちらはいきなり「リズム」から学ぶという斬新な始まり方です。
リズムの知識を基に音符や休符の長さ、拍子などへ知識を広げていく進み方となっています。
正直言うと、リズムから入って理解できるのだろうか?と思いましたが、読んでいくうちに「確かにこの流れで楽典を身に付けるのもアリかも」と思えました。
やはり目には見えないリズムから入るということで絵も豊富で、なおかつオールカラーで見やすいです。視覚的に理解をしやすくしようという著者の思いが伝わりました。また音声素材もダウンロードできるので初心者の方でも安心して学べます。
音楽はリズムと切手も切り離せない分野なので、リズムに対する知識は作曲においても必須です。すでに別の楽典を読んでおられる方でも、こちらの本でリズムのイメージを付けておくのをお勧めします。
また、こちらの姉妹本として、同著者の『できる ゼロからはじめる楽典 超入門』というものもあります。
こちらは通常の楽典本と同様、五線の見方から見ていくスタイルとなっていて、割と応用的なコードの範囲まで広く薄く見ていく内容になっています。
個人的には基本的な楽典については『できる ゼロからはじめる楽譜&リズムの読み方』のみで十分と言えます。
これ以上の範囲についてはまた他の本で身に付けた方が良いかなと思います。
『聴くだけ楽典入門 ~ 藤巻メソッド』藤巻浩著 [定番]
同著者の「コード作曲法」「コード編曲法」に続いての第3弾目です。
今回は「楽典」に焦点を当てています。前作・前々作同様、音声講義がついています。音声講義は6時間を超えています。
取り扱う内容は楽譜、五線、音部記号、音程、コード等々、音楽の中で本当に大切な部分が中心となっています。
終盤には対位法にも言及されているので、初心者の方からある程度知識のある方まで、幅広い方々にお使いいただける内容になっているのではと思います。
ちなみに、「対位法」は「和声法(コード理論)」と同じくらい重要なところですが、あまり作曲スクールでは取り扱われていないところが多いようです。
内容も高度で濃く、硬派な感じを受けられたので、少し聴きながら退屈してしまうかもしれません。
音楽に対して全くの初心者の方は、絵などを多用したもっと「軽め」の楽典本をお勧めします。
『一番よくわかる楽典入門』木下牧子監修 [オススメ!]
タイトルのように「一番よくわかる」かどうかは別として、非常にわかりやすい内容になっています。
項目としては「五線」や「音名」に始まって、「拍子」「音程」「音階」「和音」という風に、一般的な楽典の内容と同じです。
この本のコンセプトは、実際にクラシックの作品の譜例やサンプル音声を使って、目だけでなく耳でも理解してもらおうというところです。
例えば音程では、この音程の音が実際に○○の作品で使われているので、サンプル音声で聴いてみてくださいという風になっています。
実際に知識としてわかっていても、それがどう聴こえるかまでわかっていないと理解したことにはなりません。
そういった意味ではこの本は初心者の方の理解に対して、非常に考えられているなと感じました。
取り上げられているクラシックの作品は名曲ぞろいで、サンプル音声ではほんの一部分しか収録されていませんので、改めて全部聴いてみたいと思えるかと思います。
※CDは全部で99トラック、74分と大容量!
作品の作曲家は、モーツァルト・ベートーヴェン・バッハ・シューベルト・チャイコフスキーなどなど、名作曲家ばかりです。
絵や譜例も豊富で、時折音楽に関するエッセイやコラムもありますので、読み手を飽きさせない作りになっています。
メジャースケールが「長音階」、マイナースケールが「短音階」、セブンスコードが「七の和音」、ディミニッシュコードが「減七の和音」などなど、用語はクラシック寄りになっています。
ですので、今後一般的なポピュラー音楽の理論書を読むときに、クラシックとポピュラー音楽の用語が併記されていれば同一のものだと判断しやすいですが、ポピュラー音楽の用語のみ書かれている理論書だと同一のものだと判断できない場合がありますので、注意が必要です。
個人的には内容はクラシック寄りですが、読み手を理解させようと意図はすごく感じられました。また、該当するクラシックの作品を集めるのに非常に大きな労力がかかっただろうなと思います。
作曲目的でなくても、クラシックが好きな方なら楽しめる内容になっているので、この楽典を一冊持っておいても損はありません。
ちなみに、同ナツメ社・同監修者の「図解雑学 よくわかる楽典」とはほぼ内容(項目・文言・譜例・コラム等)が同じで、『一番よくわかる楽典入門』の方が若干譜例が多く、なおかつ価格が少し安いので、『一番よくわかる楽典入門』の方をお勧めします。
『楽典 楽譜の書き方』トム・ゲルー/リンダ・ラスク著
この本は、アメリカのベストセラーだったものが邦訳されたものです。
内容としては、例えば付点音符の場合の点はどのあたりに書くのが良いのか、タイやスラーの弧線はどのあたりに書くか、どれくらい延ばして書くか等、記譜上の注意点が載っています。
あくまで読み手目線に立ってきれいに記譜しよう、というのがこの本のコンセプトです。
また、そもそも付点音符とは?タイ/スラーとは?スタッカートとは?などなど、それらについての説明もあります。
ただ、これで楽典を学ぼうというのはお勧めできません。
まず各項目の説明が詳しいとは言えませんし、また50音順で用語が並んでいるので、各項目の並びがバラバラで、通常の楽典メインの本のように順を追って学んでいけません。
あくまで「楽譜の書き方」がメインで、楽典は復習用だとご理解ください。
文庫本の大きさで場所を取らず、少し調べたいという時には非常に便利です。五線譜を使って記譜される方には1冊は持っておいても損はありません。
ただ、手書きで記譜するという方は最近では少なくなってきているかも知れません。有名な作曲家の方でもFinaleやSibeliusといった五線譜メインの作曲ソフトを使われている方が多いです。FinaleやSibeliusなら付点の位置やタイの長さなど、自動的に調整してくれます。
ではこういった本は要らないのでは?と思われがちですが、一部の記号ではFinaleやSibeliusでもマウス等で入力しなければなりません。
そういった場合、本来この記号はどのあたりに置いておくべきかをしらないといけませんので、FinaleやSibeliusがメインの方でも持っておいた方が良いです。