「作曲」のイメージというと、鼻歌でフフン~と『メロディを作ること』というイメージを持っておられる方が多いと思います。
ですので、作曲はメロディから作るべきという風に考えておられる方も多いはずです。
音楽系の雑誌に出てくるクリエイターの方も「思い浮かんだメロディをiPhoneに録音して、あとで制作する」などと書かれていることもよくあるので、なお一層作曲はメロディから作るべきと思われるかもしれません。
ただ、メロディから作曲するというのは、個人的な経験上、相当の作曲経験か楽器経験がないと難しいものだと思っています。
※何十曲・何百曲も作られているクリエイターの方の意見を、初心者の方にそのまま適用できません
そのため、当スクールのレッスンでは生徒さんにコード進行(伴奏)からお作りいただいております。
ここではなぜメロディから作るのが初心者の方にとって難しいのか、メロディから作曲するデメリットについて見ていきます。
メロディ先で作る場合のデメリット
メロディを先に作る場合のデメリットとして、大きく次の5つがあります。
ではそれぞれ詳しく見ていきます。
メロディがないと何もできない
そもそも論として、メロディから作曲しようと思った場合、そのメロディ自体がなければ何もできません。
よく「メロディが(天から)降ってきた」という表現をされることがありますが、そういう機会は残念ながら滅多にないのが現実です。
降ってくるまで待っていたら時間ばかりがどんどん消費していって、いつまで経っても作曲経験が積めません。
しかし、コード進行からであればどうでしょうか?
コード進行はある程度形式化されていますし、コード進行が考えられない(浮かばない)ということはほぼありません。
また、コード進行には著作権がないので、既存曲のコード進行をそのまま自分の作品に使っても問題ありません。
ですので天から降ってくるのを待たずに作曲にとりかかれます。
コード進行を起点にメロディを作ることですぐに作曲経験が積めますし、時間や経験とともに自然なメロディに仕上げていく工夫も自分なりに身についてきます。
思い浮かんだメロディの調を正しく見分けられない
音はド~シまで12種類(12音)あります。
※ピアノで言う、白鍵と黒鍵をすべて合わせた場合
しかし、1曲の中ですべての音を使うことはほとんどなく、実際には7音程度でグループを作ります。そのグループのことを音楽では「調(ちょう)」といいます。
たとえば、12音の中で「ドレミファソラシ」の7音をグループにした場合、「ハ長調」や「Cメジャー」と呼ばれます。
※ハやCは、ドを意味する言葉
作曲初心者の方でよくある間違いとして、自分では「ハ長調(Cメジャー)」で作っているつもりが、実際には別の調になっていたというものがあります。
なぜなら、調によってはその構成音がそっくりのものがあるからです。
例えば次のスケール(調の構成音)を見比べてみてください。
- ハ長調 (Cメジャー) の構成音:ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ
- へ長調 (Fメジャー) の構成音:ファ・ソ・ラ・シ♭・ド・レ・ミ
「ハ長調 (Cメジャー)」と「へ長調 (Fメジャー)」の違いは、シがそのままかシ♭になるかの違いです。
ですので、自分の思い浮かんだメロディが「ド」「レ」「ミ」「ファ」「ソ」「ラ」の6音で作られていた場合、てっきり「ハ長調 (Cメジャー)」だと思っていたのに、実は「へ長調 (Fメジャー)」だったということが起こりえます。
次の2つのスケールも似ています。
- ハ長調 (Cメジャー) の構成音:ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ
- ト長調 (Gメジャー) の構成音:ソ・ラ・シ・ド・レ・ミ・ファ♯
「ハ長調 (Cメジャー)」と「ト長調 (Gメジャー)」の違いは、ファがそのままかファ♯になるかの違いです。
こちらも、自分の思い浮かんだメロディが「ド」「レ」「ミ」「ソ」「ラ」「シ」の6音で作られていた場合、てっきり「ハ長調 (Cメジャー)」だと思っていたのに、実は「ト長調 (Gメジャー)」だったということが起こりえます。
ある程度の楽器経験があるか、そばに作曲経験者がいない限り、作曲初心者の方がその間違いに自分で気づくことはほぼできません。
ですので、本当は「へ長調(Fメジャー)」や「ト長調(Gメジャー)」のメロディなのに、「ハ長調(Cメジャー)」の伴奏で強引に作ってしまう事態が起こってしまいます。
しかし、コード進行から作ればどうでしょうか?
コード進行を考える際は最初に調を決めてから作りますので、12音の中から使える音(調にある音)と使えない音(調にない音)をはっきり区別することができます。
ですので、先ほどのように「ハ長調(Cメジャー)」のつもりで作っていたが、実際には「へ長調(Fメジャー)」になっていたということは起こりません。メロディの調と、コード進行の調を最初からぴったり合わせて作ることができます。
正しい小節展開ができない場合がある
基本的に音楽は、1セクション(Aメロやサビなど)が4小節あるいは8小節単位で推移します。
※場合によっては1小節程度延びることがあります
ただしメロディから作る方は、中途半端に6小節で1セクションが終わったり、7小節で1セクションが終わってしまうようなメロディになってしまうことがあります。
※もちろん「意図」として6小節や7小節で終わるなら問題ありませんが
頭の中でメロディを組み立てているので、そのメロディが何小節の長さになっているかまでは意識できていないことが多いです。
しかし、コード進行から作ればどうでしょうか?
4小節分あるいは8小節分のコードを最初に並べてそれにメロディを付ければ、絶対に1セクションが6小節や7小節といった中途半端な小節数になることはありません。
最初から小節(数)を意識しておくことで、次第に「小節感覚」も身に付いてきますので、コード進行とメロディの小節数が合わないということもほとんどなくなってきます。
メロディの終着点が見えない
音楽には「終止感 (しゅうしかん)」というものが必要になります。「終止感」というのは『ここで音楽が終わったんだなぁ』と容易に感じ取れることです。
メロディから作る方はあまりこの終止感を意識せず、とりあえず前から順番に音を紡いでいくばかりになりがちです。
ですので、いつまで経っても音楽が終わったような感じにならず、宙ぶらりんの曖昧な状態で終わらせようとしてしまいます。
※もちろん「曖昧にさせる」という意図なら構いません
何とか終止感を出そうとすると、ダラダラと無駄に音が続いたり、先述の「正しい小節展開ができない場合がある」にも関連してそれに伴って小節展開も変になってしまいます。
逆に小節数に合わせようとすると、これから盛り上がりそうなところで突然終わらせて、いきなり急ブレーキをかけたような終わり方になってしまうこともあります。
また、終止感と調は密接に関連していますので、自分のメロディが何調なのかよく分かっていないと、その調にふさわしい終わり方もわからず、終止感の出せないまま終わってしまうことにもなりえます。
しかし、コード進行から作ればどうでしょうか?
最初にコードを配置するので、どこで(何小節目で)終わらせるべきか、またはどこで折り返し地点が来るのか明確になります。
また、調も明確なので、終わらせ方もある程度わかりやすくなります。
※基本的に音楽は、その調の1番目の音で終わらせることが多いです
「思ってたのと違う」で挫折する可能性が高い
頭の中でものすごく良いメロディができたと思って実際にDAWに打ち込んで音にしてみると、「思ってたんと違うっ!」ということがよくあります。
実は脳内で作られたものはかなり美化されて、無意識にものすごく重厚なサウンドに加工してしまいます。
このようにイメージと実際の落差に落胆し、作っては諦め、作っては諦めが連続し、最終的に作曲自体挫折してしまうことになりかねません。
しかし、コード進行から作ればどうでしょうか?
コード進行を作った時点では頭の中にメロディはないので、実際に音を出しながらメロディを紡いでいかなければなりません。
ですので、頭の中で加工されない状態で音になりますので、イメージと出てきた音の落差はほとんどないといっても過言ではありません。
そういったことから挫折しにくくなります。
コード進行から作るデメリットはないの?
以上、コード進行から作るメリットについて見てきました。
ただ、コード進行から作るデメリットが全くないのか?というと残念ながらそうではありません。
主なデメリットは次の2点です。
それでは詳しく見ていきます。
メロディの動きが制限される可能性がある
よく言われるコード進行先行型のデメリットとして、「コード進行から作るとメロディの動きが制限される」というのがあります。
コード進行先行型を推奨している身としてこういうことを言うのはなんですが、確かにコードが最初に決められたことでメロディの動きが制限されることがあります…
なぜならコードとメロディは車の両輪の関係で、コード進行を全く度外視したメロディ、メロディを全く度外視したコード進行はないからです。
ただ、”制限”というとあまり良いイメージがありませんが、逆に制限があることでむしろ創造性が発揮されることもあります。
例えば「何でも良いから絵を描いて」と言われるのと、「電車の絵を描いて」と言われるのではどちらが作業に取り掛かりやすく、また創造的になるでしょうか?
おそらく後者の「電車の絵を描いて」という風に、描く絵を制限された方が描きやすくなると思います。
これと同様に、どんな音でもいいから何かメロディを作ろうとするよりは、ここは「C (ドミソ)」が鳴っているところだからこれらの音を中心に組み立ててみては?と、前もって使う音の”当たり”を付けておいた方がうまくいくことも多々あります。
作曲に慣れてくると、コードに合わせつつ、それでいて過度にコードに縛られたものではないような動きを付けられるようになってきます。
メロディ自体の違和感に気づきにくい
2点目として、コード進行とドラムがあると、ある程度音楽として成り立っているので、その雰囲気に押されてメロディ自体の違和感に気づきにくくなる場合があります。
ですので、コード進行先で作った場合はメロディ単体でも不自然ではないかを見極める必要があります。
メロディが不自然かどうかを自分で判断するには、音楽の視聴経験に左右される部分が大きいので、音楽をたくさん聴くようにすれば対策は可能です。
よろしければ、「音楽未経験でも作曲センスがある人に共通する1つのこと」の記事も合わせてご覧ください。
まとめ:やっぱり『コード進行から』がイイ
以上、メロディから作る主なデメリットについて見てきました。おさらいすると次の通りです。
コード進行はある意味音楽の「枠」です。最初に枠を決めておけば、使う音や小節の長さもガッチリ決まります。
パズルと一緒で最初に外枠を作ってから中身へ進むようにした方が、意識しなければならないポイントが少なくなります。
よく「鼻歌メロディにコードを付ける方法」みたいな本を見ますが、それは自分のメロディが「音楽的に正しい」という前提がないと、本に書かれている内容の再現ができません。
初心者の方で自分のメロディが「音楽的に正しい」かどうかの判断は非常に難しいと思います。
コード進行から作曲する経験を増やしていけば、調や小節数、終止感といったものは特に意識しなくても、既存曲の形式に沿ったものに仕上げていくことができますので、まずはコード進行から作曲する経験を増やしていかれることを初心者の方には強くお勧めします。
メロディから作るのは作曲に慣れてからにしましょう。
コードについてもう少し詳しく知りたい方は下記の記事がおすすめです。初心者の方にも無理のないよう、楽譜や音符を使わず解説しています。